ROAD TO YARI -槍ヶ岳-

富士山と槍ヶ岳は、日本の山を代表する2つのタイプである。
（中略）一生に一度は富士山に登りたいというのが庶民の願いであるように、いやしくも登山に興味を持ち始めた人で、まず槍ヶ岳の頂上に立ってみたいと願わない者はないだろう。

— 深田久弥、『日本百名山』

前回の西鎌尾根から槍ヶ岳へアタックする計画は、天候不良により断念。

自分もいつかはと思いつつも、槍ヶ岳の優先順位は高くなかった。
しかし、槍への気持ちがジワジワと高まり、自分の思い描く登山計画と体力面の不安が無くなったので、再び槍ヶ岳の頂を狙う。

今回は双六小屋経由の西鎌尾根コースではなく、一般的に難易度の低い槍沢コースで二泊三日の槍ヶ岳登頂を目指す。

先週に引き続き、北アルプス山塊へIN。
さわんどバスターミナルから上高地に入る。

残念ながら本日は雨時々晴れの予報。
しかし、上高地は沢山の登山者で溢れていた。

それぞれの思いを持ってここに来ているのだろう。上高地をトレッキングする人や、涸沢を目指す人、これから縦走する人、ワクワクしているのが伝わってくる。
そんな上高地の登山口の雰囲気が好きだ。

河童橋は雲で覆われていた。
こんな上高地は初めて。

今日は殺生ヒュッテでテント泊を予定している。今までの中でも最長の行動時間となるので気合は入っている。

先日小梨平キャンプ場に熊が出て襲われてしまったらしく、キャンプ場は閉鎖されていた。
熊ベルを鳴らしながら通過した。

上高地から1時間弱。明神池に到着。
この辺りから霧から雨に。
レインカバーをザックに取り付け、モンベルのトレックアンブレラをさしながら歩いた。

雨は降っているが、木々が凌いでくれる。

たまに太陽が出たりして、このまま晴れてくれないかなぁ、なんて思いながら歩いた。

明神池から1時間歩くと徳澤へ到着。
ここで軽めの休憩をした。
横尾まではここから1時間弱。
先はまだまだ長い。

途中、一本の木が佇んでいた。
台風や大雨にも負けず、佇む姿は自然の力強さを感じる。とか言ってみたり。

横尾山荘へ到着。
上高地を出発してから二時間半。
横尾山荘は妻と初めてテント泊したので、思い出深い。ベンチに座りコンビニで買ったおにぎりを食べた。
座ったベンチが濡れていて、お尻だけ濡れてしまった。尻が濡れて凹んでいるが、さも濡れていない風に振る舞いながら平然と歩き出す。

ここに来て
槍ヶ岳
と言う看板。
いつもだったから涸沢方面に歩くが、槍沢ルートで槍ヶ岳へ。

横尾を過ぎた辺りから雨足も強くなってきた。

一の俣を通過。ここで次の槍沢ロッジまで半分を超えたぐらい。

徐々に平坦な登山道から
登りの登山道に。

槍沢ロッジへ到着。
かなり雨足が強くなり、皆雨宿りしていた。
写真には写っていないが、炊事場やロッジの中でも休憩、脚止めをくらっていた。
たぶん20〜30人は居たと思う。
自分はここでは休憩はせずに先に進むことにした。

距離にしたら、残り1/4位だが、
ここからがキツイ。

前回の双六岳では下山中にトレッキングシューズがずぶ濡れになり、かなりの不快感を感じながら下山した。
前回の反省点を踏まえて、傘で守るのは自分ではなく、トレッキングシューズ。

ババ平キャンプ場へ到着。
槍沢ロッヂからババ平キャンプ場までは中々の登りで結構体力を消費した。

ここは無人のキャンプ場で、泊まる際は槍沢ロッヂで受付をする。

トイレや水場もあるので、特に困ることはないが、無人なので食べ物や飲み物がいる場合は槍沢ロッヂへ下らないといけない。

ここから殺生ヒュッテまでは人工物は何もなくひたすら急登。ここからが本番。

晴れていればそろそろ槍が見えてくるが、見えそうにもない。

吹き下ろしの風が強くなり始め、雨は降ったり止んだり。ここからは傘をしまい、トレッキングポールに持ち替えた。
自分の拘りだが、序盤からトレッキングポールは使わないようにしている。疲れ始めたり、肩に負担がかかり始めたかなって時に使う。ブースト的な感じで使っています。

ずーっとガレ場の登り。

道中何人かの登山者から声掛けられた。
テント泊ですか？と聞かれ、話しを聞くと殺生ヒュッテにテントを張ろうとしたが、風と雨が強くテントを張れる状態ではないとのことだった。
その方はツェルト泊予定だったそうだが、風でツェルトが破れてしまい、今日はババ平へ降りて泊まるとのこと。
テント泊は止めて下山したほうがいいですよ。
と言われた。

最初は大袈裟だなぁ、なんて思っていたがその後、他の下山してくる登山者にテントが壊れたり、風が強くてテントが張れないので一旦降る
など、何人かに声を掛けられた。
正直ここまで言われたことは今まで無かったので、ビビりはじめた。
ちょうど同じタイミングで殺生ヒュッテや槍ヶ岳山荘を目指す登山者同士で
どうします？なんて会話した。

半分の方はババ平まで下山して、明日朝駆けで巻き返す人。
もう半分はゆっくり登って風が収まるのを待つ人に分かれた。
殺生ヒュッテでは、飛び込みの宿泊はキッパリお断りしているらしく、休憩も食べたら出てください。みたいな対応のようで、なんだかなぁ、なんて思っていたけど、、、(のちにその対応の意味を知る)

自分はゆっくり登る選択をした。

殺生に14時半に到着して、最悪天気が悪かったら自分もババ平キャンプ場へ降りるエスケープルートも視野には入れておきながら。仮に14時半に殺生ヒュッテを下山しても、ババ平キャンプまでは夕暮れには間に合うはず。

播隆窟へ到着。
ここは槍ヶ岳へ最初に登頂した方がこの岩屋で寝泊りしたとされる場所らしい。
覗いてみたら結構広くて快適そう。

やっと見えて来ました殺生ヒュッテ。

ついに到着。スタートから八時間半掛かった。

自分が到着した頃には、風もある程度収まり、テントを張るのは問題無さそうだった。
日頃の行いが良いからでしょう。
とりあえず一安心。

テント泊受付の際に小屋番の方に
テント泊諦めて下山される方に何人かすれ違いましたよ。と話をしたら
テント泊からの逃げ込みや、他の山小屋からの逃げ込みは強めに断っていると言っていた。
スキルと経験に不安を持つようなら、最初から山小屋泊にして下さい。とのこと。

とりあえず、風が強い時にテントを無理に張ってしまうようでは、、、その登山者の今後の為にも、心を痛めながら厳しい対応をとりましたと話してくれた。小屋番の愛の鞭、、、

テントの設営を終えると槍ヶ岳のシルエットが浮かび上がる。
カッコイイー
道中は槍ヶ岳の姿を見せてくれなかったので脳裏に焼けつけた。
これが多くの登山者を魅了する山か。痺れるー

山荘で買ったビールと持ってきたカルパスをつまみに。
沢山歩いたのでビールが身体に沁みます。
至福の一杯。

槍ヶ岳はまた隠れてしまったので、夕焼けを見ながら食事をした。

今日は殺生ヒュッテで一泊。
明日は槍ヶ岳の肩にある槍ヶ岳山荘へテント泊。
ここから１時間の場所。危険箇所は無いが、最後の登りがキツそう。

明日の天気は晴れ予報。
眠くは無かったが目を閉じたらすぐに寝れた。

夜中にテントから空を眺めると満天の星。

天の川も久しぶりに見たなぁ。ペルセウス流星群か分からないけど、流れ星もいくつか見ることが出来た。
風も無風に近く、写真を撮った後はしばらく一人で星空を眺めた。

《2日目》

朝3:30に起床。無印のバウムが朝食。
バナナバウムはしっとりしてたけど、ほうじ茶バウムは口の中の水分が持っていかれる、、、
美味しいが食べるのに時間がかかり、半分しか食べなかった。

ザックの外に道具を外付けするスタイルはあまり好きじゃなかったけど、今回は朝駆けする際にパッキングで手間を取りたくなかったので、しょうがなくテントを外付けしてみた。

ババ平方面を見るとへッドライトがちらほら。
一体何時起きで登り始めたんだろう。

久しぶりの朝駆け。
個人的に朝駆けは山登ってる感を凄く感じるし、早起きは得意なので嫌な気はしない。
むしろ好きかもしれない。

へッドライトとゴールゼロのライトの二刀流で自分も登り始めた。

山頂付近になると風も強くなり始めた。

太陽に照らされて山肌も浮かぶ。

朝一での最後の急登はなかなかしんどい。

日の出には間に合わないかと思ったが、ギリギリ間に合った。

Amazing!!!!
の一言に尽きます、、、

異国の地から訪れた青年が二人。
何語かは分からなかったけど、凄く興奮と感動しているのが伝わってくる。
ストールが風に靡く姿は幻想的でなんでか涙腺が刺激されてしまった。

赤く照らさせる槍ヶ岳山荘と槍ヶ岳。

一通り朝焼けの景色を堪能した後は、テント場の受付へ。

山では珍しくチェックアウトの時間もあるようだ。

岩と岩の間にテント場があるロケーション。
アルファベッドでA〜Gまである。
槍ヶ岳が前方に見える。

もう一つは、穂高連峰方面の尾根に続くテン場。
こちらも大喰岳が前方に見える好立地なロケーション。0〜25番まで。

テントから槍を眺めながらのんびりしたかったので槍側に決めた。A、B、Fで甲乙付けがたいが、Bにすることにした。

テント場が空くまで、槍ヶ岳にアタックする準備をしながら待った。

しばらくすると狙っていた場所が空いたので、すかさずゲット。

痺れるロケーション！！

見た目とは裏腹にフラットなスペースでいい感じに張れた。ペグもそこそこ刺さる。

のちに知ることになったが、koyanoさん夫婦も過去に数ある中で同じ場所にmossを張っていた事を知り、Bに胸熱、、、

最近では山で食べる食事を考えるのが面倒になってきたので、普通のパン。
普通のパンでも山で食べるパンは美味。

風も穏やかになってきたのでアタックを決行。

山頂まで片道30分、往復で60分のコースタイム。

ある程度岩場に慣れていれば大丈夫そう。
落ちたらただでは済まなさそうなので一歩一歩手足を使いよじ登る。

長い梯子を登ればテッペン。あともう少し。

今まで槍ヶ岳は眺めるだけだった。
ついに頂へ。

登山を始めた頃は自分には関係の無い世界だろうなと思っていた。
初めて登った山が槍ヶ岳って人もいたし、何回も登っていると言う人も中にはいた。
ただ、共通していたのは、とても良い思い出となってるようで楽しそうに話していた。

自分は何年もかかってしまったが、、、

槍ヶ岳を語る人の気持ちが少しだけ分かったような気持ちになった。
他の山とは何か違うモノを秘めた山。
それが槍なんだと。

少しだけ自分に酔いしれた後は長居をせず下山。

最初の一歩目が怖かった。高いところは大丈夫だと思っていたが撤回したい。

知らないお兄さんと励まし合いながら下山完了。

槍ヶ岳を降りた後は西鎌尾根を眺めに行ってみた。
前回はこちらの尾根から登ってくる予定だった。
ここもいつか歩いてみたい。

山荘で買った手ぬぐいはポップなイラストの袋に入っていて、なんだかほっこり。

この日は空気が澄んでいて遠くに富士山が見えた。

ただ今の時刻は9時。
もう今日はやる事は生ビールを飲むくらいしか無かった。
前回の双六岳では槍ヶ岳で生ビールを飲む為、禁酒した。ノンビールで過ごしたので念は強い。

ただ飲むだけでは勿体ないので、隣の大喰岳まで
散歩することにした。

大喰岳までは片道30分くらい。
こちらの尾根は風が強く帽子が飛ばされそうになったのでアウターのフードをかぶりながら山頂を目指した。

道中振り返ると最高の景色。

大喰岳へ到着。

穂高岳方面は雲が抜けそうだったけど、ずっとまとわりついていた。

大喰岳の山頂から見る槍ヶ岳も迫力があった。
夕暮れ、日の出をここから眺めたら良い景色が見れるだろうなぁ、
と思いながら心の中で
『酒が飲める、酒が飲める、酒が飲めるぞ〜』
と呟きながら槍ヶ岳へ戻った。

せ、1200円？？
と予想を超える値段に驚きながらも、迷いはなかった、、、、言わずもがなの味であった。

ビールを飲みながらのこの景色。何も言うことはない。

一杯だけで結構酔っ払ってしまって昼寝。
テントの中はちょうど良い暖かさで、落ちるように眠りについた。

起きたら夕方5時。
飛び起きて外を見るとガスまみれ。

テント場は満席になっていた。
さすがは人気のテント場だ。
埋まってしまった際は殺生ヒュッテまで降りることになるので、早めの到着が望ましいだろう。

本日の夕食もアルファ米。
尾西の中で1番好きなチキンライス。

ガスは翌日まで抜けることはなかった。
夕陽で照らされる槍も見てみたかったが、叶うことはなかった。

夜も星空が見えたりみえなかったりで何回か外へ出たが、テントから出ると急に曇りだすので2ラリーで諦めてふて寝した。

《３日目》

今日も日の出が見たくて早起きしたが、圧倒的な霧だったので迷わず二度寝。

二度寝して起きたら、テン場はガラガラになっていた。時間を見たら7時。チェックアウトが8時なので急いで撤収の準備を進めた。

また会う日まで槍ヶ岳山荘。

東鎌尾根を通り、ヒュッテ大槍へ。

切り立った尾根は怖そうだなぁ、と思いながらも特にヒュッテ大槍までは難所もないので、気をつけながら歩いた。

ヒュッテ大槍では前から気になっていた手ぬぐいをゲット。

ここから無心で下山。

上高地方面は晴れ。

槍方面は曇り。

下山中は曇っているほうが日差しで体力も削れられないのでありがたい。

こんなに目立つのに見逃していた槍見。

下山時にババ平キャンプ場を散策。
川沿いにもテントが張れるみたいでこちらは眺めも良さそう。

一部紅葉も始まっていた。
一ヶ月もすれば涸沢も色付き始めるんだなぁと思うと一年が早い。

槍沢ロッヂへ到着。

沢沿いは冷たい風が吹いていて、歩くのが気持ち良かった。
初日にそんなことは微塵にも思わなかったけど、天気が変わるだけでこんなにも感じ方が変わってしまう。

横尾へ到着し、水を補給する。

ずっと自家製薄味ポカリを飲んでいたので、水はここで初飲みだったが、美味しかった。

いつもだったら徳沢でソフトクリームを食べるが、今回はスルーした。
ただし河童橋に着いたらソフトクリームを食べる。

途中、ソフトクリームにするか、コーラにするか悩むこと１時間。
上高地へ到着。

抹茶ソフトで下山を祝う。

結局コーラも我慢できず、駐車場で一気飲み。下山コーラは止められないみたい。

帰宅後は、妻へ登頂を報告。
送り出してくれた時は楽しんで来てね。と言われたが、
帰宅すると、悔しいぃ！！発狂。

ただただ山欲を刺激してしまう結果となった。
登る前までは、もしかしたら槍ヶ岳に登ったら山登り飽きてしまうんじゃないかとか、考えてしまったりしていたが、そんな心配はする必要はなかった。
まだまだ訪れてみたいところは沢山ある。
今度、妻を槍ヶ岳へ連れて行くという目標も出来た。

次は何処へ行こうか。

2020.8.13-15 ※total 55.3km

#槍ヶ岳