軽さとこだわりと

百名山のひとつ、火打山。
登山道の途中に「天狗の庭」と呼ばれる場所がある。

「花が咲き乱れ、鳥がさえずり、水は山を映す」

そんな場所と聞く。
さあ行こう、久しぶりの登山だ。

今回はとにかくライトに。
テント装備を含めてアークテリクスの30Lザックに詰め込んだ。
地図や行動食はハトメを付けてサコッシュにした防水バッグに。

カメラと水を持っても10kgは軽く切ったはず。いつもの登山に比べて明らかに軽い。UL万歳。

コーヒーセット(推定2kg)も飯ごうも持って行かない。いったんこだわりは捨てて、とにかく軽く。

夜通し車を走らせて、登山口のある笹ヶ峰キャンプ場に着いた。
ほとんど寝てないので、とにかく眠いけど登り始める。

山は気持ち良い。
荷物が軽いから、足も軽い。眠いけど。

途中でバテた同行者の荷物を引き受けても軽い。

登りが急になってきた。
でも軽いから平気。眠いけど。

熊笹が生い茂る尾根に出た。
木道は歩きやすいようで、歩きづらい。
枕木と歩幅が合わないから、調子が崩れる。
でも荷物が軽いから大丈夫。眠いけど。

疲れたらミルクケーキ。
行動食にいつも持ってくる。優しい甘さが疲れた体に染み込む。

今日の目的地の高谷池ヒュッテ。今日はこの隣にあるテント場に泊まる。

沼を望む素晴らしい眺望のテント場。

食事も軽量化。いつもなら持って来るトランギアの調理器具すら持ってきてない。
お湯を入れて3分で食べられるアルファ米。予想以上にうまいけど、炊きたての米にはかなわないな。

一緒に来たメンバーが素麺を茹でてた。
暑い時期、水場がある場所なら素麺はアリだ。軽いし。

食事のあと、さすがに眠くて昼寝。
少しだけのつもりがついつい夕方まで…。
明日は天気が崩れる予報。今日中に頂上まで行こうという計画はあっさり流れた。

やることもないので、歩いて10分ほどの天狗の庭まで散歩。残雪の表面が粉となって舞っていた。

天狗の庭と呼ばれる場所。

鳥の鳴き声が絶えず聞こえる。
そよ風が頬を撫でる。
水が山と空と雲を映す。

青空は見えないけど、素晴らしい場所だ。
いつまでもここにいたいと思わせる楽園。

山の夜は早い。
そろそろ夕飯の準備。
小さい虫が多かったので、蚊取り線香を焚いた。

今日は友人の退職祝いも兼ねているので、鴨肉とステーキ肉が振る舞われた。
焼いた肉を15分アルミホイルに包んで寝かせる。焼いた際に出た肉汁は少し味付けしてフランベすればソースに。

ただただ、うまかった。
自分も山でこんなご馳走を振る舞えるようになりたい。

うまい料理とワインやウイスキーでなかなかに良い気分。山小屋に泊まっていた方が「山に来たら歌をうたうのよ」と歌詞カードをくれた。
知ってる歌は少ないけど、教えてもらって皆でうたう。気持ちが良いものだと思った。

いつもならまだ仕事してるかも知れない時間でも、山ではそろそろ就寝の時間。今日は寝よう。

翌朝、雨がテントを叩く音。
朝ごはんを食べて荷物をまとめていると、だんだんと雨足が強くなってきた。
テントをたたむタイミングを見計らって待つも、いっこうに弱まる気配がない。
仕方なく雨の中撤収。頂上を目指すのはやめて、下山することに。

登頂することをあまり重視してないけど、このところ無念の下山が続いてる。

下山中、さらに雨が強まってきた。
ここまで降られたのは初めてかも知れない。
軽量化を進めるあまり、雨具は上着だけしか持ってなかった。びしょ濡れ。

下山後は一路、温泉へ。
さっぱりした後にずぶ濡れの靴を履くのが辛かった。

やはりコーヒーは飲みたかったし、ご飯も炊きたい。軽量化とこだわりの両立は難しいけど、次への課題ができた。