氷と岩と風の世界、それに温泉

厳冬期のテント泊登山。
いつかしたいと思っていた。でも自分には縁が無いかもな、とも。

2月の終わりに行きましょうと話が進んで、厳冬期に必要な装備を揃え始めたのが1月半ば。

厳冬期用の登山靴靴とアイゼン、ピッケル、グローブ、長いペグとしゃもじから作ったスノーペグ。
ピッケルカバー、アイゼンケース、ペグケースは自分で作った。

いつか厳冬期に登る時のために、と誕生日に妻にねだった45Lのザック。ついに本領を発揮する時が来た。

今回目指すピークは八ヶ岳の硫黄岳。
初日は稲子湯から本沢温泉へ。2日目にピークに上がり下山する計画。
都内を早朝に出発して、10時半頃に登山口へ。

ピッケルやアイゼンケース、借り物のスノーショベルを外付けしたザックが勇ましい。ついに自分もこんな装備をする日が来たんだと感慨深い。

早速出発。冬場の平日だけあって、他に登山者はいない様子。

ゲートを越えてすぐ、道が凍っていた。
チェーンスパイクは安物だけど、十分な効果を発揮してくれた。

それにしてもこんな重量を背負うのは久しぶり。13〜14kgぐらいだから雪山テント泊装備としては軽い方だと思うけど、まだ慣れない雪道と相まってなかなかにズシンとくる。

しらびそ小屋は休業。ミドリ池は雪に覆われて真っ白になっている。

なんとかコースタイムより早めに本沢温泉へ到着。

山小屋に着いたくらいに雪が降り出した。辺りはたちまち真っ白に。

テント泊、野天風呂、お昼のラーメン代合わせて2000円を支払い、談話室でしばし休憩。

誰もいないテント場へ向かい整地。スノーショベルが楽しい。

テントはいつもの非自立型3シーズン登山用。インナーテントを外してフロアレスシェルターとして使った。

Webに載ってたしゃもじペグを参考にしたスノーペグに40cmのペグで問題なく設営できた。シートを敷いて完成。
テント内に雪が見えるのが新鮮。ブーツを履いたまま入れるし、床なんてあってもなくてもどうせ寒い。

設営を終えて、野天温泉へ。
テント場から10分ほど登る。

雪が積もって、野天風呂への道はノートレース。今回最も危険な道だったかも知れない。

着いた。湯船以外何もない。
雪が降ってるので、いかに脱いだ靴や衣類を濡らさないかが課題。冬山では一度濡れたものはもう乾かない。

雪降る中、温泉を楽しむ。
肩まで浸かってないと耐えられないくらい外気は寒い。湯から上がるには相当の覚悟が必要だった。

来た道がすでに雪で埋まっていた。
何度か足を滑らせながらも、温泉効果でポカポカする体を感じながらテントへ戻った。

テントは少し埋まっていた。少し雪を払って、夕飯までの時間をテントで過ごす。

無印良品で買ったジンジャーココアにウイスキーを入れて飲む。雪の中でこれがしたくて持ってきた。もちろん最高だった。

晩ご飯はお隣のテントにお邪魔して。パックに詰め直した日本酒に、豚肉と白菜の味噌バター鍋。生肉が痛まないのが冬場の良いところ。シメにうどんを入れてお腹いっぱい。

「厳冬期のテント泊はアルファ米で済ませず調理したほうがいいですよ。寒い中で辛くなっちゃうから」とアドバイスをもらってた。鍋は鉄板。

暗くなったので就寝。
しっかり準備してきたこともあって、そこまで寒さを感じることなく休むことができた。

朝、テントが狭い…。
結露した天井が下がってきているし、壁も内側へ寄ってきている。

雪があまり積もらないようにと木の下に設営したのが良くなかった。枝が雪の重みでしなって、テントを押さえつけていた。
そしてポツポツと雨粒が落ちてきた。雪は朝方に雨に変わったようだ。

雨の中、山頂を目指すのは嫌だな…。
とりあえず朝ご飯のインスタントうどんを食べて、山小屋で様子見。

2時間ほど経って雨が止んだ。山頂付近はガスがかかって見えない。他の登山者や山小屋の方にアドバイスをもらいつつ、いったん夏沢峠まで上がってみることに。

雨を含んだノートレースの新雪が重い。
少しだけラッセルを代わったけど、どんどん体力が削られる。結局ほとんど後を追わせてもらった。

まっさらな雪に自分たちの足跡をつけて上がっていく。楽しいけど、すぐにオーバーヒートしてしまった。

夏沢峠にはコースタイムの1.5倍ほど掛かって到着。やはりガスがかかっている。少し休憩して、森林限界まで上がってみることに。

凍りついた森が美しい。

そろそろ森林限界。
ガスが掛かっているものの、目印の杭が二つ先まで見える。強風で有名だけど、この日はそこまでじゃない。
雪も積もってないし、滑りそうなこともない。危険度は低いと判断して、ピークを目指すことに。

時に強風が吹き、少し先は白い。
このあたりで寒さのため一眼レフの電池がもたなくなり、iPhoneで撮影することに。

岩と氷と風の世界。
どこのファンタジーに迷い込んだのかと思う光景が広がる。

頂上に近づくとケルンがいくつか現れる。
岩場でのアイゼンに慣れず、体温調節もうまくいかない。なかなかペースが進まない。

やはりコースタイムの1.5倍かかったけど、なんとか登頂。風が強く、とにかく寒い。
眺望もまったくないし、長居はできないので、早々に下山開始。

頂上からの帰りに一度グローブを代えた。あまりに指先が冷たくて、暖かいものに。今日は比較的寒くないとはいえ、油断は禁物。

森林限界より下がったので、ここからは再び薄い手袋に。テムレスの黒いやつ。登山前日にテント設営用にと思って買った。
100円の薄い手袋と合わせると、登山中も意外とこれでいけた。カメラの操作もできるし、タッチパネルも反応する。今回一番活躍した道具かも知れない。

下りはスピードを上げられた。
テントを撤収し、水を含んで重い荷物とともに登山口へ。

雪に覆われたミドリ池には誰かが作った雪だるま。

登山口前には霧につつまれて、ロシア民話に出てきそうな雰囲気。(ロシア民話ほとんど知らないけど)

下山後はそばで締め。

極寒の野天風呂、厳冬期のテント泊と八ヶ岳のピーク。充実した登山だった。
体温調節と体力不足、技術不足もわかったし、次へも繋げられそうだ。

冬の山は過酷だけど、本当に奥が深い。
一度経験したら魅了される気持ちがよくわかった。まだ知らない世界がそこにはあった。