まだ先へ、まだ上へ
これは2019年9月末のお話。
今年も涸沢カールへ来た。
2015年、2016年、2017年、一年おいて今年2019年。
数えれば4度目になっていた。
年々荷物を軽くしてきたし、体力の衰えを誤魔化すようにスクワットにも励んでおいた。(1ヶ月だけ)
今年は涸沢まで苦労せず上がれた。最初に登った時は大汗かいてバテてたように思う。
「涸沢で会いましょう」と数人で待ち合わせ。現地集合、現地解散、日程はばらばら。こんな集まり方ができることが素敵だ。
テントを立てて、皆で集合して晩ご飯。全員が一堂に会すのは今夜だけ。
車座になって各々料理を始める。ステーキやすき焼きが出てくる。ここは標高2300mなのに。
自分は一人用の鍋を作った。「しいたけも軽量化ですね」とばってんの切り込みを入れた具材に声が掛かる。なんて心地の良いアイロニーだろう。
昼は夏山の様相でも、さすがに9月下旬。高所の夜は冷える。
夜景や星空を撮影したら、早々にシュラフに潜る。
翌朝、モルゲンロートが見える。朝日に照らされる山々のことだ。薄暗い穂高が徐々に赤く染まっていく様子を、寒さを堪えて誰もが見上げている。
今回は涸沢からさらに上に登ろうと準備をしてきた。ザックに必要な物だけ詰めたら、奥穂高岳への登山ルートへ。
9月も終わりというのに暑い。
風もなく、絶好の登山日和なのかも知れないけど、暑い。
遠くにザイテングラードが見えた。いわゆる支稜で、穂高へ続くこの場所をそう呼ぶらしい。
ごつごつとした岩場に鎖が這わせてあるのが見える。手前でザックからヘルメットを出して装着した。
穂高岳山荘に着く。ここまでは順調。
水を補給して休憩しながら、すぐ隣にそびえる奥穂高への登山道を眺める。
登り始めから岩を直登する必要がある。
鎖とはしごが連続しているのがわかる。たくさんの人が山荘の前のベンチに腰掛け、どう攻略するかを話し合っていた。
さて、登る。
はしごや鎖は最初だけで、よく整備されている。特に難所は無いように感じた。
しばらくして頂上に着いた。
頂上からの眺めは格別だった。
連なる山々が眼下に見える。神々の視座を得たようにも感じるほど、高いところまで来たなと思う。
奥穂高岳は日本で3番目に高い山らしい。
穂高岳山荘まで戻ると、テレビ番組の撮影隊が登り始めるところだった。すれ違いの時に少し話をして、穂高岳山荘へ入った。
テレビに映るといいなと思うけど、そんなに良い受け応えはできなかったので多分カットだな。
山荘で食事が提供される10時まで待ち、うどんを注文。広がる出汁の香りに鼻腔を大きくしながら地図を広げる。
さて、この後どうしよう。
このまま涸沢に下りてもいい。どうしても登りたかった奥穂高岳には登れたから、もう十分という気持ちもある。
だけど、この時間なら北穂高岳へも縦走できる。
奥穂高は少し物足りなかったし、脚の調子も悪くないし、天気も良いし、うどんもうまい。
…よし、行こう。
まずは手前の涸沢岳へ。
山頂を示す標以外なにもない。穂高と名が付く山に囲まれて地味すぎじゃないかな…。
ここからさらに進み、北穂高を目指す。
奥穂高から北穂高へは上り基調。とはいえほとんど岩場の連続で、登ったり降りたりが続く。
左側はすっぱり落ち込んでいて、落ちたらタダでは済まないなと背筋が冷える。それでも、こうした岩場には心躍る。
ずっと岩場と鎖場が続く。
鎖の先が見えなくて、不安になる箇所もある。
高度感があり、アップダウンの続く道は距離の割になかなかハード。
こういうルートは好きだ。油断しないように気持ちを引き締めながらも、楽しく進んだ。
途中の見晴らしが素晴らしい稜線で、テント泊装備の方と少し話し込んだ。
両側が切れ落ちたその場所は360度素晴らしい眺望。話相手の少しお年を召した方は岩に腰掛けて休憩中だった。
なぜテントを担いで山へ来るのか、そんな話をしたと思う。
風が少し吹いている。太陽から一番近い天空の世界で、ぽつりぽつりと話すその人は本物の仙人なんじゃないかと錯覚する。
話を聞きながら、いくつになっても挑戦するその姿に心が揺さぶられる。いつか自分もテントを担いでここを縦走しようと強く思った。
しばらくアップダウンを繰り返して北穂高の山頂に着いた。少しガスがでてきている。
ピークを踏むことに拘りはないけど、やり遂げた感じがして気持ちいい。
ソロで来ていた方と写真を撮りあって、少し会話を交わした。明日ここから下山して、上高地からのバスに間に合うか心配とのことだった。良ければ涸沢までお供して降りますよと申し出たけど、北穂高小屋に空きがあるのを確認して泊まることを選択された。
山では無理しないことが一番だと思う。
さあ、涸沢へ帰ろう。
比較的安全な下りになると、少し脚に来ていたことに気付かされる。こういった時に怪我するものだと聞かされている。
なかなかペースが上がらないし、たまに足が滑る。
明日の帰りのバスをネット予約するついでに、少し長めに休憩を取ることにした。涸沢カールだと電波がほぼ無いけど、少し登った場所ならビンビン。
無事に予約できて、明日の日程が決まった。
涸沢小屋へ着くと、涸沢でバカンスを楽しむコヤノ夫妻がビールジョッキを空けていた。
今日はずっと涸沢で過ごしていたのだと言う。心の余裕が違う。素晴らしい時間の過ごし方だ。
合流しておつまみにあり付きながら、ビールと日本酒を空けた。気持ちよくテントに戻り、昼寝。疲れていたのもあって、次に起きたのは「お客様、夕飯の準備ができました」というコヤノさんの声が聞こえた時だった。
何から何まで用意されていた。うまい鍋に炊きたてご飯。
これは登山じゃなくて山旅と言って良いんじゃないだろうか。
夜は満天の星。
山の影から星が溢れ出るよう。しばらく見上げていた。
最終日の朝。今日も晴天。
コーヒーを淹れる。朝ご飯は小屋で買ったパンとチョコレート。
最後のパッキング。
いつもの30Lのザックに2泊3日のテント泊装備を詰め込んできた。ヘルメットはザックの天袋に無理やり収納。ちょっとはみ出てるけどご愛敬。
帰りのバスの時間が迫っていたから少し急ぎ目に下る。
下りでは横尾からの平坦な道がとにかく暇だ。だらだらと3時間続くこの道の攻略法は「飽きたと言わない」「何か楽しい話をする」こと。一人だと辛いだろうな。
小梨平で風呂に入り3日分の汗を流す。最後にいつも通りソフトクリームを決めてフィニッシュ。
今回も素晴らしい旅だった。まだまだ先へ、まだまだ上へ行けると思えた。
同行してくれた皆さん、ありがとうございました!
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daimaru
一年近く下書き状態だったのをようやく投稿しました笑。 実は昨年はこの後も涸沢に行ってます。今年はちょっと難しいかな…。
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green_blue_black777
山装備は詳しくないんですが、30Lのザックに二泊三日の装備は想像出来ません💦💦
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めぐらいだー
涸沢カールってほんと素敵ですね✨山登りは全く未経験ですがいつかやってみたいなって興味でます🥺色々奥が深そうなのでしっかり投稿見て勉強ですね🧐
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ワイン好き
2泊3日テント泊装備ヘルメット付きで30Lザックは凄いですね。😳 重量は何キロなのかとても気になります。
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Martin
ちょうど今朝、奥穂一泊二日のテント泊の予定が流れた所です😇 仲間内の持っている装備で10月の北アルプスは断念せざるを得なかったです🥺 今はどこにしようかワクワクしながら検討してます👍
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shoma
この間1人で槍→横尾→上高地を降りましたが、辛かったです。笑 寒い時期は鍋いいですね。山でのご飯はどんどん疎かになっているので、次回はもう少し凝ったモノを作りたいと思いました。
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кочапо
僕らが呑んだくれてる間の出来事、興味深く読ませていただきました😁 いつか雪山もお供いたします‼️