うっかり塔ノ岳
「鍋割山で鍋焼きうどん食べてくる」
家族にそう言って、家を出てきた。はずだった。
午前10時15分、自分は今、塔ノ岳の登山口にいる。なぜだ…。
本当にうっかりしてた。
ぼけーっと登山口の標識に従って歩いてた。それは塔ノ岳への案内だった。
戻る気力が湧かない、自分が不甲斐なさ過ぎて。
もういいやとそのまま登ることにした。
今日は時間制限がある。
朝に用事を済ませてそのまま車を飛ばしてきた。そして夕方にも用事がある。
どうしても4時までに駐車場に戻らなければならない。
いわゆるエクストリーム登山だ。
そうなるともう鍋割山の登山口へ戻る20分が惜しい。何かの間違いで塔ノ岳へばかっ早で登れれば、もしかしたら鍋割山へ縦走できるかも知れない。
そんなことはまあ起こらないんだけど、今日は天気も良い。塔ノ岳からの眺めも良さそうだしなと歩き始めた。
鍋焼きうどんを食べるつもりだったから、水しか持ってきてない。行動食は登山口の手前の自販機で買った粒コーンスープだけ。
それも登り始めて早々に飲んでしまった。ああ、甘いものが食べたい。
ひたすら続く階段。これこそ塔ノ岳だ。
登山者の心を何度も何度も折ってくる。
登っても登っても階段。
わけいってもわけいっても階段。
ああ階段。
たまに視界が開けて富士が見える。
11月も終わりが近いから気温は高くない。
それでも長く長い登りに心肺は跳ね続け、汗が噴き出る。
脚はまだ残ってる。でも肺と心臓が悲鳴を上げてる。
花立山荘。8号目ってところだろうか。知らんけど。
最後の休憩を取る。
メガネを拭いても拭いても、体からの蒸気で曇る。俺は活火山だ。
「あの、あれが頂上ですか?」
「そうですよ、お疲れ様」
「やったー!」
これが頂上目前、下山してくる方との会話。子供みたいな「やったー!」が飛び出してしまった。
登頂。登山口から2時間半ってところだろうか。
とにかく甘いものが食べたいと、山小屋へ。
ホワイトチョコと抹茶のパウンドケーキが絶品だった。下界で見かけたら100%買ってしまうだろうというくらい、脳裏に、いや、胃袋に焼き付けられた。
一緒に頼んだ甘酒もまあ美味いこと。あっさりお上品で、五臓六腑どころか毛細血管の先の先までまで染み渡っていく。
富士が見える。
江ノ島や鎌倉の町、横浜やその先の東京までも見える。
本当に空気が澄む日には、筑波山まで見えるらしい。さすがに今日はそこまで視界は届かなかった。
鍋割山へ縦走もふと頭によぎる。鍋焼きうどんを食べれば、どう考えても時間に間に合わない。だがしかし、鍋焼きうどんを我慢できる自分が想像できない。
…仕方ないなと、そそくさ下山へ。
午後の日差しに輝くすすきが美しい。
木漏れ日落ちる木道もまた美しい。
を見つつも、ガンガン飛ばして1時間半ほどで下山。
3時には駐車場に戻って来れた。今日は脚の調子が良かった。こんなペースでいつも行けるとは思えない。
鍋焼きうどんは食べられなかったけど、良い登山だった。
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CHAKU
daimaruさんの「やったー!」は想像したらウケました🤣 鍋焼きうどん 悔やまれますね〜😂
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mamis
鍋焼きうどんを我慢できるのが尊いです😃 果てしない階段💦 それに負けない健脚も尊いです🤩
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ニャタ
まっすぐな階段でさみしかったのでは? 山頭火、良いですよね。