やさしい世界

「うーん、困ったなぁ」

「社長、どうしました？」
「お、ちょうど良いところに。これ見てよ」

「ああ、このコンロ、風防がしっかりしてて使いやすいやつじゃないですか」
「そう、気に入ってるんだわ。で、何か気づかない？」
「あ、汚いなぁ。ちゃんと洗ってます？」
「そこじゃねーよ」

「ここ、ここ」

「わっ！ ノブないやん！なんで？！」
「前にキャンプ行った時に気づいてたんだけど、その時にはもう無かったんだよね」
「気づいた時に早く言ってくださいよ！ てかこれ、これまでどうしてたんですか？！」

「プライヤがあるだろ」
「いやいや！ 止め刺しちゃいますって！ とりあえずイワタニに聞いてみましょうよ」
「なるほど、一理ありだな」

「もしもし、ゴマフカンパニーです。実はマーベラスのノブ…火を調整するつまみって言えば良いのかな？ が壊れて、というか無くなりまして。はい、ビスも無いんです。はい、はい、……はい、分かりました。よろしくお願いしますー」
「どうでした？」
「無償でノブ送ってくれるってさ」
「なんと！」

［数日後…］

「社長、イワタニさんからなんか届いてますよ」
「お、来たか！」

「あっという間に元通りだぜ」
「てか無償対応ってすごいですね」
「そうだな、うちも見習わなきゃならん」

「直ったことだし、せっかくだから美味しいチャーイの特訓してみないか？」
「分かりました、牛乳買ってきますね」

「しかしこのやかん、見れば見るほど雑な造りですね」
「こら！ こういうのは味があると言え」

「茶葉を多めにして、砂糖とマサラの量を調整してみました」
「ん……60点」
「えー、厳しいなぁ」
「もう少し爽やかさがあったほうが良いんじゃないか？」
「なるほど確かに、今度はもうちょっと生姜入れてみますか」