続.転生魔王ののんびりキャンプライフ🌋

前回、前世で自分が異世界で魔王をしていた事を思い出したが、今世には何も関係の無い事だ

なぜなら今世の俺は、平凡というのも烏滸がましいくらい、取り立てて特別なものなど何も持っていない人間だからだ

しかし前世を思い出した事で、今世での自分の行動や嗜好が、ある意味前世に引きづられているのではなかっただろうかと思い至った

前世では魔力や暴力が有り余り、内紛が続く魔界(人間達や亜人種がそう呼ぶ領域、魔人族達の勢力圏)の平穏の為に駆けずり回り、魔族達の仲裁や調停ばかりに頭を悩まされていた俺には、実は密かに憧れている種族が存在したのだ

何を隠そう、その種族とは「ドワーフ族」と呼ばれる種族だった

成人しても平均的な人間族の子供くらいの身長ではあるが、俺のいた異世界では最新の技術は必ず彼等の開発したものであり、人間族もエルフなどの他の亜人種達も、我が魔族に至るまでその技術開発の恩恵に預かっていた

鍛治を始めとしたドワーフ族特有の技術は、種族の境なく販売、提供されていた

モノ作りに精を出し、職人気質で他の者達に媚び諂う事無く、酒が何より好きで自分の思うままに生きている彼等は、権力に雁字搦めの俺の目には眩しく映っていた

魔王城に出入りしていたドワーフの上位種、エルダードワーフの職人達も身分差がありながら俺に媚びる様子は見られず、仕事を離れれば対等に話が出来る数少ない友人のようなものだった

その憧れが、転生した今世の俺の生き方に影響を与えていたと仮定しても、何も不思議では無い

実際に現世の俺の仕事は、建築関係の職人として生活を送っている

仕事としてもそうなのだが、自ら何かを作る事を楽しむのは最早、業と言ってもいいくらいだ

ある所で見かけたギアが、俺にも作れるのでは無いか？と思い出したら、もう止まらない

とりあえずやってみなければ気が済まないのだ

材料を吟味し、想像した通りに創造していくのは一種の快感だ

それが例え、お金を出せば手に入る製品の模倣だとしても、完成に近づけていく試行錯誤は堪らなく面白い

そして、ココ、dayoutで拝見し、真似させて頂いたmakoさんのプチプラリメイク薪バサミだが

やはり自分なりに色々と考えて作って行くのは楽しい

もしかしたら、かの方も前世はドワーフ、、、

いや、余計な詮索はやめておこう、、

そしてもうひとつ、今世で楽しんでいるのが調理だ

元から旨いものは好きだったし、少しはやっていたのだが、キャンプにハマるようになって俄然面白くなってきた

様々なクッカーを使い、熱源を厳選し、調理法を試して旨い料理が出来た時は心が満たされる気がする

特に今ハマっているのはメスティンだ

焼き鳥缶の炊き込みご飯

余った刺身を浸けにしてから揚げ、カツ丼風の卵とじにした丼

ケンミンの焼きビーフン

など、キャンプで作る事を考えながらの試作はたのしくも美味しい

次にキャンプに行ける時の為に、いや、ただ己の心の赴くままに楽しみながら過ごせる毎日は前世と比べても自分の理想に近づけたようで、ここに転生させてくれた創造神様に深い感謝を贈りたいと思う

そういえば、あのエルダードワーフの親方は今頃どうしているのやら

今世で出逢う事など無いだろうが、会えた時にはまた旨い酒でも酌み交わしたいものだ

side K

今日も彼は仕事が休みなのにもかかわらず、仕事上で必要だという理由で借りているガレージ兼倉庫へ、嬉々として出かけて行った

最初は本心から仕事の作業場として借りていたのは知っているが、現状はバイクや趣味のものが徐々にスペースを侵食し、お世辞にも仕事の為とは言い難い場所になっている事を私も知っている

全く、、、

彼自身は気付いているのだろうか？

そこへ向かう為に家を出る自分の目が子供のように輝いている事に

彼の前世を思えば、楽しそうな今の趣味や生活に文句を言う気などはサラサラ無い

私自身も「勇者」として幼い頃に覚醒してからは、権力に取り込まれ、楽しいなどという感情からは無縁の生活を送ってきたからだ

人間達の為に血反吐を吐くような訓練を受け、彼の前世である「魔王」を打ち果たしても平穏な日常は訪れなかった

元々、魔族が脅威なのは周知の事実だったが、実害など微々たるものだったのだから

人間種同士の政治的な争いに巻き込まれた私は、魔王討伐からいくらも経たない内に、救ったはずの同じ人間によって暗殺された

今世で彼と結ばれ、ある意味、私自身も幸せの意味を知ることができた

彼は私を始め、子供達や家族にも沢山の愛情を注いでくれる

だから彼自身にも平穏で幸せな日常を過ごして欲しいと心から思っている

だが、、、

さすがにここの所の彼はお金を使い過ぎてはいないだろうか？

今世は前世よりも文明度が高く発達しており、代償として流通貨幣の価値が高い

生活にはお金がかかるのだ

あまり彼の楽しみに踏み込む積もりは毛頭無いが、一度その場所を私も訪れて、彼が私に伝えきれていない様々な趣味のものを見せてもらうのも悪くない

そう和かに彼に伝えると

イタズラのバレた幼な子のように、私の視線から、泳いだ眼をそっと外らせる彼がいた、、、

続 転生魔王ののんびりキャンプライフ [ 完 ]