ブリザードは突然に

コチコチの世界。

その上に広がる真新しいふかふか。

ざっざっざっ。
ざっざっざっ。

スコップを力強く握る。

かんかんかん。
こんこんこん。

ガイロープはしっかりと。

しゅっしゅっしゅっ。
ぎゅっぎゅぎゅぎゅっ。

もうすぐ暖簾を掛ける時間。

お、こんなところに赤提灯。

がらがらがら。
すみません、ひとりいけます?

あらじゃい!

クセがすごいな。おっ? なんだこの店は⁈

まるで酒蔵ではないか⁈
ん? あそこにあるのは…

ありゃー富山の酒、立山だぁ

見てくれぇ!
赤提灯を追っててとんでもない店を見つけてしまったぁ

どうしよう⁈

薪ストーブがめらめら唄う。

ケトルがぴゅうぴゅう笛を吹く。

ぱちぱちぱち。ぶぉぉぉ。ごぉおごごご。

煙突がどんどん引っ張っていく。

お客さん、そろそろイベントが始まるんですけど参加されます?

イベント??
ちょっと面白そうですね、じゃあ是非!

ちょっとなに言ってるか分からない。

なんでわかんねーんだよ!

お待たせしました‼︎

おい聞けって!

第1回っ居酒屋ごまふ亭プレゼンツ!!

チキチキ この一口に命をかけろ!

賞金10万円争奪! ききレモンハイ〜っ‼︎

私が呑んだのは『ウィルキンソン』です!

ブーーッ!
正解は『のんある気分』でしたー

嘘や⁈

私が呑んだのは『明日のレモンサワー』です!

ブーーッ!
正解は『氷結ZERO』でしたー

ぜんっぜん当たらんやんけ

私が呑んだのは『氷結ZERO』です!

ブーーッ!
正解は『明日のレモンサワー』でしたー

んーもーなんやねんっ

あーあ、もう全然当たんねーや。

判ってきたかなーって頃にはすっかり酔い始めてるし。

てか『のんある気分』初めて呑んだけど、なんかめっちゃ酒感あるし。

もう寝よ寝よ。

こうしてまた、夜が静かに更けていく。

はずだった。

夜3時。
バンバンバン!

ん? どしたん?

叩き起こされたものの、眼鏡を外し、耳栓をしていたので気がつくのに時間がかかった。

びゅうびゅびゅびゅぅぅぅぅ
ごごごごごごごごご
ざざざざぁぁぁざざぁ

外はすごい風。
彼女は叫んでいた。

「テントが、飛ばされる‼︎」

「落ち着けっ、外の様子を確認してくる!」

目を疑う光景ってのは、こういうのを云うんだろう。

やべぇ! スクリーンタープが崩れてやがる!

びゅうびゅびゅびゅぅぅぅぅ
ごごごごごごごごご
ざざざざぁぁぁざざぁ

外は猛吹雪。
山の向こうから束となった風が、壁となってテントを飲み込んでいく。

こりゃ急がねば‼︎

なんだか頭が妙に冴えていた。

「よしっ、とりあえずタープの中身を仕舞う! 飛んじまうぞ、急げ‼︎」

無我夢中でテーブルやクーラーボックス、いつもただただ広げてる道具を車に移す。

「順序は気にすんなっ! 細かいものは袋に詰めるんだ!」

びゅうびゅびゅびゅぅぅぅぅ
ごごごごごごごごご
ざざざざぁぁぁざざぁ

頭の中で『紅』が流れる。

「ええいっこの忙しい時に! ちっダメか⁈ タープはもうもたん! 連結外すぞ‼︎ テントを守るんだ‼︎」

びゅうびゅびゅびゅぅぅぅぅ
ごごごごごごごごご
ざざざざぁぁぁざざぁ

ペグが抜けていた訳では無かった。
ガイロープが切れていた訳でも無かった。

タープ自体が、裂けていた。

「クソーーッ!」

わずかな灯りを頼りにタープを撤収。

急いでテントに戻った。

不思議なもんで、緊張の糸が解けた途端に人間は腹が減る。

鍋を囲む間も風は止む気配がないどころか強さを増し、ほとんど眠れないまま太陽が顔を出したのだった。

人生で最初に買ったまともなテント。

2015年のフジロック。

2016年は茨城から伊勢神宮までのキャンプ旅。

ゆめ牧や武尊。秩父に本栖湖。

コイツとは本当にたくさんのところに行った。

自然の前では、21世紀になっても未だ人間は無力のようだ。

よっぽど凄まじい猛攻を受けたのか、ポールもすっかり曲がってしまっていた。

修復は、出来るだろうか。

キャンプを好きになり、アウトドアの趣味が広がるきっかけを創ってくれたコールマン。

もう一度、ふもとっぱらに連れてってやりたいなぁ……